回復列車。
博多に向かう列車の中でさるきちは
今回の帰省について想いを馳せる。
父母が駅まで見送りに来てくれた。
田舎村の小さな駅。
普段はがらんとしてるのに
帰省ラッシュの煽りを受け、
心無しかヒトが多い。
さるきち列車に乗り込むと
首を伸ばして
最後に母に手を振ろうと
その姿を探す。
でもちょうど反対のホームに列車がやってきて、
母の姿は確認できないまま
列車は出発した。
携帯にメールが届く。
「見送ったけど、何も見えなかった(泣)。
急にさみしくなったよ」
さるきち胸がキュンとなる。
今までの帰省は
いつも不完全燃焼で終わり、
実家から帰る列車の中で
過食が始まっていた。
乗り継ぐ各駅の売店で
菓子パンを買い込み、
道中食べまくり、
一人暮らしの部屋に到着したとたん
トイレに直行して吐いてね。
再び、過食嘔吐の日常に逆戻り。
でもね、今回はちょっと違う。
乗り継ぎの待ち時間に
近くの定食屋で
豆腐ハンバーグの五穀米定食なんぞを完食し、
心身満ちた状態で新幹線に臨む。
そう、さるきちはココロ満ちていた。
病気のことを家族に告白できたことは、
さるきちにとって大きな前進だったと思う。
帰省した直後は拒食気味で
食事時もご飯を
お箸でつんつくするだけのさるきちに、
母は
「大丈夫。大丈夫。食べても大丈夫」
と声をかけてくれた。
その言葉は、
これまでに母が発したどの言葉よりも
さるきちを勇気づけた。
他にもね、
「太っても大丈夫」
とも言ってくれたのだけど、
まだ太ることに抵抗があるさるきちは
その言葉はあまり心地よくなくて、
それで、そのコトも母に伝えることにした。
「『大丈夫』って言われると勇気づけられる。
でも『太ってもいい』ってのはまだちょっと混乱する」
母は「わかった」と言い、
以降、「太る」という言葉は使わず、
「大丈夫」を連発した。
前倒しで、ご飯を盛りつけながら「大丈夫、大丈夫」。
なーんて。
さるきち母は短気なのだ。ハハ。
「お母さんの声を録音してあげるよ」
なーんて提案まで。
目覚まし時計みたいにね。
悪くないね。
さるきちは笑った。
さるきちの父は田舎の古い考えなヒトでね、
過食嘔吐してるなんて話したら
「もったいない」
の一言で終わると思って
話してなかったんだ。
でもね、
食事時の不自然さ感じてか、
父から尋ねてきた。
「さるきちは病気なんか?」
「うん、ちょっとね」
父は夕飯の味噌汁をお椀によそっていて
さるきちはお盆を持ってそれを受けていた。
さるきち父は主夫なのだ。
「病名だけでも教えてくれんか」
目も合わさず父は言った。
さるきち父は照れ屋なのだ。
「拒食症だよ」
すんなりとさるきちの口から応えが出た。
「そうか」
「さるきちいつか本出すからさ、
そしたらその本をプレゼントするよ」
「おう、わかった」
それで十分だった。
無関心だった父。
食卓の準備の間に交わした二言、三言。
それでさるきちには十分だったの。
さて、さるきちの上の弟。
パパになった彼はすっかり大人びて、
大量に服用していた薬も手放し、
うつも克服し、
顔色もすっかりよくなっていた。
以前は、
起きたばかりの死体
みたいな血相してたのに。
彼は単刀直入の毒舌でね、
「さるきちはいつまでヒトに頼ってるの?
自分で治そうと思わないの?
俺は医者を信用していない。
だいたい医者が病気が治る薬を出すと思うか?
そんなことしたら廃業だろうが。
自分で治すしかないんだよ。
さるきちは先ず、太れ。
子どもを産める身体にしろ」
年子の弟に全く頭が上がらないさるきち。ハハ。
でもね、
ずっとうつの迷路に迷い込み、
低地を這いずっていた
弟の過去を知ってるさるきちは、
健常になり、立派になった彼の言葉には
説得力を感じるのでした。
辛口っぷりには若干キズついたんだけど。ハハ。
最後に、さるきち下の弟…
うーん。
彼のコトは、いいやね。
改めて、
家族って、不思議な関係だね。
衣食住をともにして、
なんの気兼ねもない間柄なのに、
実は互いの見えない糸が
複雑に絡み合っていたり、
つながっているようで
ぷちっと切れていたり、
S極とN極みたいに引きあったり
同極のように反発したりしているんだなあ。
誤解だってあるし、
キズつけ合うコトもあるよね。
でもね、
ほんとは、“ココロ”が休まる場所なんだ、きっと。
疲れたり、キズついたココロを癒す場所。
そんな場所であって欲しいよね。
さるきちはね、今回叶った気がする。
そして、これからは、
実家の家族との関係も維持しながら、
旦那サマとココロあったまる家庭を
築いていこうと思うんだ。
なーんて、
考えつつ、列車の長旅に
さるきち爆・睡。
終着駅到着の案内で
目を覚ましたのでした。
危ねぇ。危ねぇ。
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