家族談議はビュッフェスタイル。
自然食バイキングの店。
夕方7時を回り、店内は混雑してる。
中央に置かれた数々の惣菜、
パスタ、サラダ、ご飯etc...
多国籍の料理。
山盛りの美学を追求するヒトもいれば、
まるでパレットに出した絵の具のように
美しくワンプレートを彩るヒトもいる。
夏休みもあってか、家族連れも多い。
はしゃぐ子どもの声が
吹き抜けの天井にこだます。
そんな明るい雰囲気の中、
どう見ても場違いなサルの親子がいた。
さるきち家だ。
涙を滲ませる、さるきち母。
母を直視できない、さるきち。
ぽかーんとしている、さるきち弟。
一通り料理を食してから、
「重い話、していいかな」
さるきちはそう切り出した。
さるきちは、過食嘔吐の現状を告白する。
弟に摂食障害を告白するのは、
初めてだった。
病名は聞いたコトがあるみたいで、
「食べて吐くやつだろ」
そう、そのとおり。
「なんでそんなコトするの?」
それがわかれば、苦労してない。
さるきちは、まるで壇上に立つ
選挙候補者のように、
本から学んだ基本情報や
パンダ先生の助言なんかを総動員して
熱弁をふるう。
勢いに乗じて一気に話すしかなかった。
「医学的には」とか「心理学的には」
なーんて、
言葉の権威を利用したりして。
毎日、食べ吐きしているコト。
吐いた後は倒れているコト。
自責と後悔の念でうつ病に陥るコト。
さらに、手首を傷つけているコト。
二人とも真剣に聞いてくれた。
「その腕の線がみんな“その”痕なの?」
二人の視線はさるきちの左腕に。
「何で切ってるの?」
「包丁。でも最近はかみそり。
その方がよく切れるってわかったから・・・」
なに余計なコトまでべらべら話してるんだー、このサルはっ。
と、さるきち自分につっこむも、遅い。
二人とも、渋い顔で肩をすくめる。
「うげぇ」
母がおそるおそる問う。
「何が原因なの?」
わかんない。
さるきちは未だ研究中なのだ。
でもね、
これも、読んだ本に書いてあったんだけど・・・
と、さるきちは良書「『食べない心』と『吐く心』」、
「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」を引用しながら語った。
幼少の頃の両親の喧嘩。
それによって、無意識に
家族の崩壊に危機感を抱いたコト。
自分が悪いと思い込んださるきち。
自尊心が育たず、偏った考え方の癖が身についたコト。
それによって、感情、特に怒りを表現できないコト。
ココロに溜め込んだもやもや感が、過食に転移されるコト。
「私の育て方が間違ってたのかな」
母はそう言って目頭を押さえた。
そうじゃない、そうじゃない。
それが言いたいんじゃないの。
むしろ、それを聞きたくなくて、今まで言えなかったの。
さるきちは必死でフォローする。
「大事なのは、今の関係なんだから」
本からの受け入り。
眠れなくなりそう、と言う母に
今までだったら、さるきちも傷つき動揺していたと思う。
でも、さるきちは、ちょっと成長したのだ。
「さるきちね、」
とドキドキする胸を押さえながら、
さるきちは続けた。
「今だからこそ、母に話せるようになったの。
一人のヒトとして、対等な立場のヒトとして、
悩みを相談したいと思ったの。
それはね、この間、
母が離婚の話をさるきちにしてくれたから、
さるきちも本当の気持ちを母に話そうと思ったの」
先日の話し合い(→コチラ)で、
さるきちは母はすでに一人の人間として
独立しているコトを知った。
さるきちは勝手に母の気持ちを憶測し、
自分を追い込んでいた。
さるきちが、依存しすぎていたのだ。
でも、それはもう、止めるのだ。
母は少なからず傷ついただろうし、
さるきちを想い眠れない日々があるかもしれない。
でも、母は、乗り越えてくれるはず。
さるきちが責任を感じる必要はないのだ。
もちろん、
「へーんだ。あんたのせいなのよ。
もっと悩めばいいのさ〜
」
なーんて、親不孝的に見捨てるというのではないのです。
さるきちは、母から独立し、
一方で母をヒトとして尊重し、
ヒトとして応援していこうと思うのです。
一息ついて、母は尋ねた。
「それで、どうしてあげたら、いいの?」
「あのね、さるきちもう一つ、
ココロにひっかかっていることがあるの」
「何?」
母の声は震えていた。
「“あの事件”、あったじゃん」
「・・・」
しばし沈黙し、母は言う。
「ああ、例の?」
「さるきちね・・・」
泣くな。
泣いちゃだめだ。
ビュッフェレストランで、泣いているサルがどこにいる?
さるきち心臓がどくんどくんしてた。
「つらかったの。すごく、つらかったの。
そのつらかったコトを、本当は、お母さんに伝えたかったの」
さるきちは、男に暴力を受けていた事実を伝えた。
母は衝撃を受けているようだった。
「そうだったの・・・」
「さるきちね・・・
ずっと自分を責めてたの。
さるきちが悪いと思ってたの」
そして、さるきちは、核心に迫る。
「お母さんは、さるきちを悪いと思ってる?」
さるきちの声は震えてた。
でも涙はこらえた。
そして、母を見た。
母は、再び目頭をおさえながら、
「お母さんは、さるきっちゃんのコトを
悪いなんて思ってないよ。
これっぽっちも、思ってないよ」
ココロの中で、凍っていた何かが音を立てる。
それは、きっと、
村上春樹「海辺のカフカ」の
カフカ少年が感じたような、
微かな音だったのだと思う。
「そっか。さるきち、悪くないんだ」
母が顔をあげ、さるきちを見る。
「さるきっちゃんは、悪くないよ」
母の目は赤かった。
ドライアイではあるまい。
さるきちは悪くない。
「その言葉を聞きたかったの。
母に言ってもらいたかったの」
「そうだったの・・・」
長年、ココロに溜め込んできた想いだった。
さるきちは話し終えて、
ココロがすっと軽くなったのでした。
そして、突然。
「俺、アイスクリーム取ってくるわ」
さるきち弟が、これまたいいタイミングで
場の雰囲気を壊してくれたのでした。ハハ。
でもね、
さるきち家族は少し笑顔が戻ったの。
今思えば、
家族談議にはそぐわない
ビュッフェスタイルのレストランだったけれど、
逆によかったのかもしれない。
これが洒落たイタリアンとか、
居酒屋の個室だったりしたら
もっと、ネガティブに捉えてしまったり、
泣き出して収集つかなくなったり
していたのかもしれません。
膨れた腹を抱え、三人は店を後にしました。
さるきちは、一歩、家族に近づけた気がしたのでした。
そして、“さるきち”を確立しつつある気がしたのでした。
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